2020年9月16日水曜日

書評の世界は奥深い

昨夜出た週刊ALL REVIEWS(メールマガジン)の巻頭言は私が書いた。以下にそのまま掲載しておく。(主に個人の記録のため。)


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ALL REVIEWS友の会に所属しながら、書評のことは知っているようで知らない。これはクヤシイので月刊ALL REVIEWSの対談ビデオや書評本で、書評について勉強してみた。

8月の月刊ALL REVIEWSノンフィクション回、武田砂鉄さんとの対談のなかで鹿島茂さんが、書評についていろいろ語ってくださった。そのなかで心に残ったのは丸谷才一が述べたと言う新聞掲載書評の書き方三原則。いわく、

・マクラは三行で書く。

・要約はきちんとする。

・本をけなさない。

鹿島さんは、書評は書籍を通じて時代を知る一種のフィールド・ワークであるとも、おっしゃっていた。

鹿島さんの書かれた書評集を、ALL REVIEWSで探した。『歴史の風 書物の帆』が見つかった。ご近所の書店で売っていなかったし、最寄り図書館にもなかったので、電車二駅先の隣の市の図書館で借りてきた。

まえがきに代えて」(実はALL REVIEWSに収録済み)に、書評の原則が書かれている。期せずして、さきほどの丸谷三原則の解説にもなっている。

・イントロは素人向けに書く、書評の目的は最終的に書店で本を買ってもらうためのものだから。

・引用は多めにする。引用だけになってもかまわない。ポイントを引用できると効果的だ。

・評価は同種の本と比べた相対評価とする。評価の際にフォルム(本の書き方)も重視する。

「歴史の風 書物の帆」という題名は美しいし、書評は時代の思潮を知るフィールド・ワークであるという事をうまく表現している。これは、小学館文庫版についている堀江敏幸さんの解説(これもALL REVIEWSに掲載済み)を読むと、エピグラムとして掲載されたベンヤミンの『パサージュ論』の一節に由来することが理解できる。元となった筑摩書房の単行本は1996年に発行されたが、昭和という時代に「航海」に出たたくさんの本という「帆」にどのような風が吹き付けたかが、収録された多数の書評を読むとよく分かる。もちろん、この中には本を買いに書店にすぐ行きたくなるような書評がたくさんある。

2020年、現在の大嵐のなかでも、たくさんの「帆」が厳しい風をはらんで、この世界の中で舞っている。鹿島さんのみならず、多くの書評家の方々の書評を読み、なるべく多くの帆の状況を調べたい。誰にでもできて、楽しい「フィールド・ワーク」だ。(hiro)

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数日前にAmazonで古本で注文しておいた『鷗外全集 第35巻』(岩波書店)が到着。「日記」を集めた巻だ。旧版の全集では3巻に分かれていたが、この新版(1975年)では1巻にまとめられている。そして、旧版にくらべ「北游日乗」が新たに収録されている。『鷗外選集』は持っているのだが、『選集』では、「北游日乗」、「独逸日記」、「小倉日記」、「委蛇録」の4編のみ。『全集』のほうが断然たくさんの日記が収録されているし、行間が広いので書き込みがしやすい。そして、45年前の本だが、状態は非常に良い。1,000円は買い物だ。


余談ながら、作家の個人全集が最近出ていないのは困る。電子出版でいいから、いや電子出版のほうが自由に検索できていいのだが、全集をぜひ出して欲しい。Webの形でも良い。

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