週刊ALL REVIEWSメルマガ巻頭言を書いた。昨日夜、メルマガ購読者へメールでお届けした。
このブログでは、この巻頭言の原稿を書いている経過を報告していたが、最終的には下記のようにした。
ファニー・ピション『プルーストへの扉』(白水社)を読んだ。翻訳はALL REVIEWSでもおなじみの高遠弘美さんだ。今年の新刊だが、よく売れているらしい。一般読者の立場に立った書き方が好ましいし、『失われた時を求めて』を楽しく読ませるための工夫が凝らされているからだろう。作家プルーストの紹介、プルーストの読み方、プルーストの文体についてそれぞれやさしく解説されている。原著にはない文献目録、プルースト関連年表と固有名詞索引が高遠弘美さんの手で付けられておりその内容が素晴らしい事も特筆したい。
本の発売と時を同じくして、高遠弘美さんによる全3回の有料オンライン講義、「『失われた時を求めて』で挫折しないために」も開催された。有料イベントにもかかわらず200人以上の人が参加したとのこと。『失われた時を求めて』を、高遠弘美さん訳の光文社古典新訳文庫版で「挫折せずに」読み続けている私なので、進んで受講した。講義は3月27日に終了したばかりで正直に言ってまだ消化不良だ。講義の内容が豊富すぎる。幸いにして見逃し配信が一ヶ月間あるので、繰り返し観ている。
観ているうちに悟ったのは、いや教わったのは、私のような一般読者は難しいことを考えずに、純粋に楽しく読むことを心がけるべきということだ。身構えて「理解」してやろうとして読むことは「挫折」につながる。わかるところを拾い読みするだけでも良く、気に入ったところの「自分なりの抜書き」(Mes pages choisies)を作るのがオススメと高遠弘美さんは三回目の講義でおっしゃった。この手法は書評を書く際のコツ(鹿島茂さん筆)にも類似している。
抜書きを実行してみることにした。準備として高遠先生訳の『失われた時を求めて』の電子版も揃えた。読み直しながら抜書きを作るつもりだ。
一番目に抜書きするところはもう決めた。真夜中に主人公が目覚めて不安になるシーン。これとまさに同じ感情を自分も4年前の入院時の夜に味わったからだ。
『プルーストへの扉』では筆者ファニー・ピションが、「藝術作品というのは、藝術家固有の認識方法の力を借りてようやく入ることが許される一つの世界」とまえがきで言っている。高遠弘美さんは二回目の講義で、この本を訳した理由として、『失われた時を求めて』の読者を「挫折」とは無縁の境地にいざなうため、とおっしゃった。その高い境地に向かって、楽しく『失われた時を求めて』を読み直したい。(hiro)
本の良さと、抜書きの有効性をどこまで訴えられたのか。まだまだ、文章の書き方には修業が必要と痛感している。