2020年6月19日金曜日

『パトリックと本を読む』 (白水社)は読むのがつらいが最後まで本を手放せない魅力が……



『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』(白水社)を読み終えた。

副題に「読書会」とあるが、著者とその元生徒パトリック二人だけが、最終的に(刑務所内でだが)メンバーとして残る。

285頁。巡回裁判所に行くと、昔の生徒が何人も被告人として出頭している。皆有色人種の若者。

292頁付近。大抵の被告人は司法取引で有罪を認めてしまう、そのかわり刑期を短くすると持ちかけられるから。国選弁護人は少なく、(待遇が悪いので弁護士はいやがる)、そもそも裁判以前に弁護人に会うことがほとんどない。

337頁。パトリックの知的成長には「静かな部屋」が必要不可欠と著者は気づく。刑務所で運が良ければそれに近い状況になる。彼らの家庭では「静かな部屋」などあり得ない。本を読むことはおろか、ゆっくり考えることすらできない。ウルフの、物を書こうとする女性は500ポンドと鍵のかかる部屋が必要、という議論を思い出す。パトリックのほうがもっと絶望的状況。著者の助けもあるが、読めて書けるようになったのはパトリックの英雄的な努力による。

危機的な状況で、人間性を取り戻す(得る?)ために読みそして書くことが有効ということは、この本でも同じだ。しかし、『ガーンジー島の読書会』のドイツ軍圧政下よりも、21世紀のアメリカの状況のほうがひどいとは恐ろしい。

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