『三体III 死神永生』読み終えた。終わりははじまり。繰り返し読むに足る作品。
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とりあえず、読後感を書いてみた。まだまだブラッシュアップの必要がある。
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『三体III 死神永生』(早川書房)を読んだ。劉慈欣さんの国際的ベストセラーSFの第3部でシリーズ完結編である。日本語訳は大森望さん、光吉さくらさん、ワン・チャイさん、泊功さん。翻訳臭がなく、読みやすい素晴らしい訳文である。地球文明よりはるかに進んだ「三体文明」の地球侵略に対抗する戦いを描いた前2作のスケールをさらに凌駕する壮大なSFロマンで、読者を遥かな時空のかなたに連れて行く。
2019年に第1作、2020年に第2作を手に入れて読んだが、その当時「三体ロス」という言葉が流行った。私もそうだが、その面白さにしびれた日本の読者が、早く次回作を読みたくて言い出した言葉と思う。私には今回は「三体ロス」は起きなかった。なぜか。
私の場合の「三体ロス」解消の最大原因は、本訳書の本文にあった名言による。いわく「すべてが移ろいゆくこの世の中で、死だけが永遠だ」(日本語訳下巻108ページ)。主人公を代表とする人々、地球文明や三体文明、そして宇宙とその基礎となる物理法則、これらすべてがこの物語のなかで生まれ、変化し、消えて行く。我々が絶対の物理法則と信じている光速ですら変化する可能性を持つとされ、物語の中で実際に変わっていく。皆が絶対不滅と思っていることが変わっていく。劉慈欣さんは言外にイデオロギーの違いなどで争うのは無意味だと言っていると思えてきた。この境地に至れば、「三体ロス」など問題にならない。
変化する物のなかでより長い生命を保つものに、「言葉」がある。数千万年後の人へのメッセージとして岩盤に文字をきざむ話が出てくる。子供向けのおとぎ話を使って密かに情報を伝えるエピソードも出てくる。文学はその多義性・曖昧性により、かえって他よりも強力な情報伝達力を持つということが示される。ここも劉慈欣さんのメッセージに完全アグリーであるし、この『三体』のテキストそのものも言外に私の考えているよりはるかに多くのことを語ろうとしていることに、驚きを感じる。
もう一つ、私が注目したのは「冬眠」だ。登場人物は何回か冬眠して不遇な時代をやりすごす。物語進行をスピードアップする著者の高度なテクニックなのだが、冬眠後蘇生して新たな時代の課題に敢然と立ち向かう主人公のすがたに憧れてしまった。私もできるなら冬眠して、今よりもっと複雑で困難な世界と対峙してみたい。
すべての『三体』ファンの皆様は当然『三体III』を読むべきだし、当然読むであろう。そして、はじめての方には『三体III』からこのシリーズを読み始めるのをお勧めしたい。3部作の中でもっともロマンチックで、もっとも読みやすい。ストーリー以外の道具立ても魅力的で、例えば『ドラえもん』の「どこでもドア」を思わせるガジェットも出てくる。ハインラインの『夏への扉』へのオマージュかも知れない。
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保苅瑞穂『モンテーニュの書斎 『エセー』を読む』(講談社)を読み始める。面白い。娯楽作品である『三体』よりもすらすら読めるのが不思議だ。
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