2022年7月9日土曜日

『文体の舵をとれ』の練習問題回答の合評会は楽しい


ALL REVIEWS友の会有志でやっている「文舵会」は『文体の舵をとれ』の練習問題の回答を持ち寄っての合評会です。今年1月にはじめ、今月は7回目。毎月1回開催のペースは守られています。

今回の練習問題は「〈練習問題⑦〉 視点(POV)」、一つの物語の記述を「視点(POV)」を変えて行ってみるというものです。

今、回答作成途中だが「視点」を変えると書くべき内容が、かなり違ってくるのに、改めて驚きました。例えば、『吾輩は猫である』の猫の視点と苦沙弥先生の視点は違うので、それをうまく書き分けないといけないわけですが、原稿を書きながらそこを的確に書き分けるのはまさしくプロの技です。練習問題をやってみるとそこがクリアになってくるようです。

昔勤めていた会社にYさんという超優秀な幹部社員の方がおられて、社内研修などでお話を伺う機会も多かったのですが、つぎのようなお叱りを受けたことがあります。「あなたの言っていることは具体的すぎてわかりにくい……」、つまり自分の狭い体験だけを振り回していると、他の人には通じない・役に立たないということのようでした。「具体的」にではなく、それを皆にわかるように「抽象化」して話さないといけないのです。

「視点」を変えて記述をすると、各「視点」ごとに「具体的」な書き方がまずは必要になります。そして練習問題の回答は最後に、「潜入的」視点で書くことが求められます。「潜入的」視点で書くには、各視点で書いた「具体的」な文章を全部吟味して、そこから「抽象」された全体的な意味を持つ文章を工夫しなければなりません。夏目漱石ではない私達は、各センテンスをどの「視点」で書くか意識するという困難で神経を使う書き方をしなければなりません。「書き下ろす」のとはちがい、一語一語を最新の注意をはらって書かなければなりません。

森有正先生の「体験」と「経験」のちがいも、この練習問題をやることで、わかるような気がしてくるようです。『文体の舵をとれ』の練習問題をやることには、とても大きな意味があると、毎回気づきます。これは素晴らしい、気付きやヒント満載の本だと思います。私のような素人でもそう思わせるのは、著者のアーシュラ・K・ル=グウィンさんの偉大さのおかげです。またそれを(特に練習問題を)訳した大久保ゆうさんも素晴らしい。

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と、偉そうなことを言っていないで、早く問4をやれと、誰かが叱ってくれているような気もします。 

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