2020年6月15日月曜日

『海からの贈物』(新潮文庫)は今読むべき本だろう

一昨日掘り出した『海からの贈物』(アン・モロー・リンドバーグ 吉田健一訳 新潮文庫)をほぼ全部読む。



2年前の今日、このブログで、アン・モローのことを書いていたことを、今、ブログを読み返してみて思い出した。でもなぜか『海からの贈物』を読み返さなかった。見つからなかったからかも知れない。そして、今日読み返してみて、随分共感できるところのある本だったのだと、はじめて気づいた。

7頁。
私はものを考える時は鉛筆を手に持っていたほうがいい。

以下は、二年前の私のブログからだ。
「誘拐事件の容疑者(ドイツ系移民)が捕まり、裁判で有罪となる。リンドバーグは殆どの場合冷静に裁判を見守る。冷静すぎるとアン・モローは思っただろう。

 一方、アン・モローは感情の起伏を隠せないが、徐々に自分を取り戻してゆく。その助けとなったのが「書く」こと。リンドバーグと共に太平洋地域を飛んだときの旅行記を、裁判のかたわら書き綴って行く。」

8頁。
もっと豊かな休止がある律動を、またもっと自分たちの個人的な要求に適った生き方を、そしてまた、他人、及び自分自身に対してもっと新しい、有意義な関係に立つことを望んでいる……

13頁。
浜辺は本を読んだり、ものを書いたり、考えたりするのにいい場所ではない。……少なくとも、初めのうちは、である。

14頁。
海岸の原始的な律動の中に押戻される。

このあたりの記述は、『トニオ・クレーゲル』と『ブッデンブローク家の人々』を如実に思い出させる。鬱屈した精神をまずは律動が酔わせ、その後ゆっくりと精神は休息に向かう。

25頁。
……煩雑な生活……それは私たちを統一にではなくて分裂に導き、恩寵を授ける代わりに私たちの魂を死なせる。

29頁。31頁。
浜辺での生活で第一に覚えることは、不必要なものを捨てるということである。……捕虜収容所で三年間を過したフランスの或る友達が私に同じようなことを言った……簡易な生活がどんなに大きな精神上の自由と平和を与えるものか……

46頁。
誰でも、そして殊に女は、一生の或る部分、また毎週、及び毎日の一部を一人で過ごすべきである。

49頁。
どうすれば活動している最中でも魂の静寂を得られるか……

***

コロナ禍のなか、周囲と隔離された人々の何人かは、このような感慨を持ったのではないだろうか。

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