2021年5月7日金曜日

『天体観測に魅せられた人たち』(原書房)の読後感を週刊ALL REVIEWSに書きました


今週の週刊ALL REVIEWSメルマガの巻頭言を書いた。すでにメルマガは発送済みだ。自分向けの記録の意味もあろうと思い、以下に再録する。

ところで、週刊ALL REVIEWSの来週号は100号記念号になる。100回続いたご褒美に、鹿島茂さんのお言葉が掲載される。ついでに、私の「回想」も掲載してもらう\(^o^)/

まだのかたは、この機会にぜひ読者登録して欲しい。申込みはこのブログ(Web版)の右端でできる。

以下。第99号の巻頭言。

ALL REVIEWS掲載の記事で紹介された、エミリー・レヴェック著『天体観測に魅せられた人たち』(原書房)を読んだ。カール・セーガンの『コンタクト』を子供の頃に読んで天文学者になろうと思ったという、エミリー・レヴェックさんが自分で選んだ道を突き進み、困難を乗り越えて観測と研究の最前線に立つまでのサクセス・ストーリーは感動ものだ。自分の経験だけでなく、周囲の天文学者仲間へのインタビューの内容を楽しげに語っている部分も読みどころだろう。訳は川添節子さん。天文学用語の翻訳など困難なお仕事を、見事に成功させたと素直に感謝したい。

この本は何回も読み返すことができた。素人天文ファンの私だが、天文学のおさらいをしながら読むとどんどん面白さが増してくるのだ。面白く読み返すためのポイントは2つだと、おさらいをしながら気づいた。

天体観測のやり方の進歩が1つ目のポイント。21世紀の天体観測では光学式望遠鏡や電波望遠鏡でデータを取得するだけでなく、ガンマ線やX線、そして重力波などの検出器を使って、同時に多様な手段でデータを集める「マルチメッセンジャー天文学」が盛んになっているらしい。

なぜ、そのように多様な手段を使うのかが2つ目のポイント。宇宙のことをより深く知るには、目に見える恒星の姿を調べるだけでなく、その内部構造や生成消滅のメカニズムを調べる必要がある。赤色巨星や中性子星やブラックホールに関しても同様だ。これらに対しては可視光による観測だけでなくガンマ線やX線、重力波などできるだけ多くの観測手段を用いるという。たとえば、2017年には中性子星どうしの合体が、可視光だけではなく同時に重力波でも観測できた。

おさらいの手助けとして、私はYouTubeの各種ビデオと、天文学の論文のアーカイブ(たとえば「天文月報バックナンバー」)を使った。著者エミリー・レヴェックさんの天文学者としての「サクセス・ストーリー」を手がかりにして、難しく見えるビデオや論文のなかのエッセンスを自分なりにすくい取ることができた。

いながらにして観測データをメールで受け取る著者の最近の状況を読んでみると、60年前に田舎の家の二階の窓から手作りの望遠鏡で美しい冬の星を眺めていた自分自身の姿に、捨てがたい郷愁を感じてしまう。

天文好きな人々皆にオススメの本であるのはもちろんだ。そしてこれを読んで天文学を学ぶことを目指す若者が増えてほしいと思う。また、昔の天文学ファンが、もういちど天文学を好きになるきっかけとなるとなおいい。読む人の人生を、大きくまたは小さく変えるような本をとりあげて紹介するのも、ALL REVIEWSの重要な役割なのだろう。(hiro)

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今までのこの種の本は、天文学の老大家が書いたものが多かったような気がする。現役バリバリの著者の書いたこの本は、最新の観測・研究成果をたっぷり紹介しつつ、一般向けの説明も充実しているという点で、群を抜いていると思った。

この本の書評はまだ目にしていない。私のは一読後の「感想」なのだが、誰かの目にとまってその方がこの本を手にとっていただけることを祈りたい。

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