2020年2月28日金曜日

ソール・ライターは永遠に

『永遠のソール・ライター』、写真集をe-honで取り寄せてもらうことにした。渋谷での展覧会に行くのは残念ながら中止。電車賃と入場料(シニア割引なさそうだし)を考えると、購入するほうが良いと判断した。手元におけるし、マチエールが大切な絵と違い写真なので。

売れているらしく、「取り寄せ」扱いになったので手にできるまでに少し時間はかかりそう。楽しみに待つ。



レースカーテン越しの写真を撮ることを考える。これもソール・ライターのマネだが。



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『くよくよしない力』(フジコ・ヘミング)を読んだ。
書誌:
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000001-I029120113-00

69頁。「クロイツァーとの出会いによって、音楽というものに導かれた。」

73頁。「じゃがいものお味噌汁が大好き。」ベジタリアンなのだ。

79頁。読書好き。「本の中にその人自身が投影されて」いる本。

113頁。「芸術は人と違っているほうがいい」と、ヨーロッパで教えられた。

119頁。「一つの場所にいたほうが、自分の目指すところに早くたどり着く。」

135頁。「夢は、ラヴェルの『ピアノ協奏曲』とラフマニノフの『ピアノ協奏曲』をCDにすること。」

155頁。「遅くなっても待っておれ、それは必ず訪れる」

内容は素晴らしいのだが、本の作りがいまいち。彼女はそんなところは気にしていないのだろう。

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政府の場当たり的な新型コロナウィルス対策で(学校の閉鎖など)、混乱が広がっている。今日、スーパーで買物をしていたら、トイレットペーパーやティッシュが棚から姿を消していた。デマに踊らされる人がいるのは、正確な情報を出していない政府の責任だろう。

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『論語』対談メモをnote原稿の一部用として下記のように書き直した。不明な部分を調べて補い、文章として読める形に直した。まだ腑に落ちないところがあるので、ビデオを見直してみる。

以下、作業中の文章
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16時開始。
鹿島:出口さんは「通史」にチャレンジされている。日本では珍しい。私はフランスの通史を訳した。出口さんに書評していただいた。(『フランス史』(講談社)

渋沢がいかに論語を読んだか。それをいかに事業展開に生かしたか。きっかけは二つある。
ひとつめ、例えばバルザックの理解には当時の歴史研究が必要だ。歴史家があつかっていないところ。たとえばサン・シモン主義。ユゴーもそうだし、ナポレオン第二帝政もそうだ。(出口さんは大きくうなずいている。)サン・シモン主義はモノ・ヒト・アイディアの3つが循環して利益を生み出すとする。フランス人は競争嫌い。英米露はそうでない。澁澤栄一は欧州に行きサン・シモンを取り入れたかもしれない。その一方で論語のエートス(倫理観)も取り入れた。

ふたつめ、家族人類学のキーポイントは直系(父―子―孫)家族。エマニュエル・トッドによると発達の一定時期に成立する。論語も直系家族を基にしている。他の中国の思想は共同体で平等。共産主義(トッド理論のサワリ)。論語の時代はユダヤ並みに古い。

出口:私は「保険屋」なので素人の観点で申し上げたい。

ナポレオン三世はたしかに面白い。皇帝制とサン・シモン主義が共存していた。フランスには珍しく、英国と仲が良かった。第二帝政は王制とも共和制とも言えない。私はパリが好きだが、「今の良きパリ」はほとんど第二帝政でできた。トッドも好きだ。日本は男女差別が激しい。その原因の一つは長子単独相続制。職業も安定し、社会の流動性はない。中国は流動性高い。中国を考える上で大切なものは(漢)字と紙と始皇帝。紙に書かれた文字で社会を統治している。「一君万民」の社会であり、中間に「やさしい殿様」はいなかった。ギルドにもあったが、市民は互いの人間関係(秘密結社)も使って自分で自分の身を守る。

孔子の時代(知の爆発の時代)にはプラトンもアリストテレスもブッダも現れた。天才の現れる時期だった。なぜか。地球温暖化と鉄器の普及で農業がうまく行きだした。余剰生産物を使って威信財交易もはじまった。社会の余裕で勉強する人も現れた。後に周が滅びてそれらインテリが地方に分散した。中華思想の走りをインテリが地方に伝える。戦国の七雄のなかでインテリたちが議論し、それが諸子百家。
(続く。)

16時36分。
鹿島:私なりに易しく言ってみる。「礼」とは宮廷の儀礼。孔子は礼儀作法を教えていた。ブライダル・マナーやセレモニー・マナーそして宮廷マナーの教師だった。母親はシャーマンだが、母方の祖父に学んだのだろう。学び方はブッキシュ。「詩」(詩経)と「易」(易経)をオタッキーに勉強した。ただし「論語」ではシャーマニズムを嫌っており、その要素の部分は哲学的に変えて理論武装している。
孔子は弟子には「考えろ」、勉強しろと教えている。つまり知識だけじゃ駄目と。いろいろな弟子がいた。顔回は可愛がっていて死の時のなげきは激しい。(『論語』参照)子路は駄目生徒だった。何回教えても身につかない。でも孔子は目をかけた。それらの弟子により孔子のことばの受け取りかたがちがう。
勉強が好きなのは直系家族の特徴。そして直系なので祖父母の教育力が大きい。

出口:年寄りを手厚く扱って老年まで養う。おばあさん仮説が有名だが、群れ社会での生き残り・差別化戦略だ。血統と礼儀。

平清盛と頼朝は福原と鎌倉に引っ込んで、(うるさい旧権力から離れて)政治を行った。義満も。
孔子は「礼」を創った。周の大物の夢を見たとして「礼」を記述。

鹿島:土地私有制のもとに代々続く直系家族が成り立つ。祖先崇拝が出てくる。相続だけでなく、他のことでもフィロソフィー(一般原理)に従った。

出口:戦国の七雄。中国は欧州より広大なので、一般化した原理でないと諸国に通用しない。

鹿島:孔子が引用した文献は今では分からないものが多いが、論語は文献学にもなっている。ニーチェの『道徳の系譜』に通ずる。(聖書には新旧の話が含まれており、それを見分ける。)文献学は見分けのルールを体系化する。「古い方」がいいのかなど。フィロソフィー(哲学)は「考える」ルールである。孔子は文献学好きであり哲学好きである。

出口:孔子はそのルールを知っていた。昔の文章を集めて整理する。他国に通用するものができた。(でも)総理大臣にはなれなかった。仕方ないのでルールを体系化して弟子に教えた。プラトンにも似ている。プラトンもアカデメイアという学校を作った。(続く)

この本の前身、『「全世界史講義」 教養に効く人類5000年史」(新潮社)は近所の図書館にあったので、即日借り出せた。
書誌:
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000001-I027011430-00

第2部第2章の「知の爆発」に孔子の事が書かれている。儒教はその後、中国ではメジャーな思想にはなり得なかった。昨日の話通り、重要なのは諸子百家で言えば「法家」。紙と墨で書かれた法律が重要な統治の手段となった。「法家」と「儒家」の関係は為政者の「本音」と「建前」。後に他の宗教たとえばキリスト教が入ってきても、儒教の先祖崇拝は当然のこととして認められた。大した宗教ではないと気に留めてもらえなかったのかも。日本ではどうだったか。

17時。

鹿島:「論語」は現代中国における思想とは真逆です。

出口:孔子の言っていることは立派。立派すぎて毎日言われると嫌になる。皮肉な老荘思想のほうがインテリには好かれる。役人は法家思想でいく。一方、人民は助け合いで対抗する。世界連邦はいまやディストピア。諸子百家はその逆を行ったものだった。

鹿島:1対1では中国人は日本人に勝つ。10対10なら日本人が強い。400メートルリレーのように。
共立で30年、明治で12年教師をやったが、共立ではルールがあまりなく運営がファジー。たとえば教授と事務の間に副手がいてうまく問題を調整する。明治は巨大なので法家思想で統治される。なんでも文書化してある。

フランスでは数え方は60進法。この数え方なら財産も分割しやすい。遊牧民は平等であり、牛や羊は分割して相続しやすい。英国も12進法。始皇帝は遊牧民だったかも。

出口:四大文明は独自に発生したのでなく、メソポタミア文明がエジプトやインダスや中国文明に伝播した。たとえば、商では戦車(チャリオット)を使った。これらを岩波のシリーズに書いた。今5分冊のうち2冊め。草原と海。

鹿島:女性進出が日本では遅いが、一旦始まると早くなる。日本は世界では最も辺境。卑弥呼のいた日本は双系制家族(?)。少し女性に傾いていた。

出口:明治期に国民国家をつくろうとした。天皇制をそのツールとしようとした。その儀式のロジックに朱子学を使った。家父長制を基本としている。

司会:そろそろ時間です。

質問:澁澤栄一の論語解釈の分析をお願いします。

回答:鹿島:暴利を貪らない金儲けは正しい。論語を読み直し、ギブとテークの釣り合いをとれば良いと考えた。サン・シモンの社会民主主義に通じる。
出口:ルターが聖書に立ち戻ったように、澁澤栄一は朱子学ではなく原点である論語の理想そのものに立ち戻った。


このQandAの参考になるのは、鹿島さんの「『渋沢栄一 上 算盤篇』(文藝春秋)の解説」と、澁澤栄一自身の『論語講義』、後者は国会図書館デジタルコレクションですぐ読める。

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