2019年5月27日月曜日

OLD REVIEWS試作版第十七弾…内田魯庵『蠧魚之自傅』の自序

内田魯庵『蠧魚之自傅』の自序

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一 『蠧魚の自傅』は大震後十ヶ月、偶然日々紙の囑に應じて寄稿連揭したもので、極めて愚劣な無用の饒舌であるが多少慮かる處が有つたのである。實は大震の爲めの文献の滅亡に鑑みて平生書籍を取扱ふ關係から文献の保存上心得べき事を克明に書いて見やうと思ったのだが、每日の新聞では恐らく誰も讀んで吳れまいと、生じつか讀んで貰うツモリの下心があった爲め半熟の粥とも糊ともつかない變挺なものとなつた。誰かに讀んで貰うツモリのが結局は誰も讀んで吳れさうも無いものとなつた。だが、之を主として以下數篇、總て大震の爲めの典籍禍に深く慮かる處があつて筆を操つたのである。

一 淀橋長者傳說以下四篇は總て舊稿、多少字句の妥當ならざるものを更めたが大凡舊稿の儘である。顧愷之、ポスター、インカ古陶、總て不穿鑿な研究の足らないものであるが、各々自分の趣味の過󠄁程を記念するものである。

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出典 内田魯庵『蠧魚之自傅』(昭和4年 春秋社)
国会図書館デジタルコレクション(下の画像も)


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あとがき
『蠧魚之自傅』の最初の文章が「蠧魚の自傳」である。書籍保管の苦労と注意点を「紙魚」の立場から語った作品だ。蘆庵はこれを校正しているうちになくなったらしい。丸善に勤めているときに、関東大震災に遭つた蘆庵がその経験を語った作品が後に続く。

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あとがきのあとがき
鹿島先生の『東京時間旅行』を読んでいたら、丸善と内田魯庵の話が出てた。内田魯庵のことを読んでみたいと思って、国会図書館デジタルコレクションでこの本を探しあてた。ぜひ最後まで読んでみたい本だ。

丸善には予備校生時代と就職直後によく通った。ここで本を眺めて余裕があれば本を買い、ボーナスが出たときには東京駅方面の「十勝」という店でステーキを食べるのが楽しみだった。本を買うといつも腹が減った。少し方角を変えて「ブリジストン美術館」(只今建て替え工事中で来年2020年1月に完成らしい…楽しみだ)で常設展を見るのも楽しみだった。

ところで、紙魚には我が家でもときどきお目にかかる。本を食い荒らされては困るので、退治するが、なんとなく惻隠の情を催すこともある。少なくとも不潔な感じはしない。これからは、蘆庵の教えに従ってなるべく紙魚の発生しないような環境を作りたい。

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