2021年8月21日土曜日

丸谷才一の「構への大きい」書評は読書の宇宙を明るく照らし出す

丸谷才一『山といへば川』(中公文庫)を拾い読み。

346頁。

「作家の批評 辻邦生『トーマス・マン』」を読んでみた。この本は愛読していたので。

「高度な知識人でしかも有能な作家である人が、多年尊敬を献げて来た偉大な作家を論ずるときだけ、かういふ充実した本を書くことができる。辻邦生の『トーマス・マン』はそんな性格の本である。」
349頁。

「さういふ、構へが大きくて威勢のいいマン入門の書として、これはいかにもこの著者にふさはしい本になっている。」

つまり、ドイツとフランスの市民性の相違を辻邦生が論じていることを褒めている。

これは「週刊朝日」1984年3月11日号に載った書評ということだ。『トーマス・マン』が岩波書店から発行されたのは、同書奥付によれば1983年1月24日。一年間タイムラグがある。この原因までは調べきれないだろう。ともかく辻邦生とトーマス・マンのファンにとては見逃せない書評だ。

この素晴らしい書評を読むと『トーマス・マン』だけでなく、トーマス・マン、辻邦生に関連する本をいろいろとたくさん読み漁りたくなる。一つの書評が壮大な書物宇宙を照らし出すという好例だ。 



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